「世界性の健康デー (World Sexual Health DAY: WSHD)」を知っていますか?
世界性の健康学会 (World Association for Sexual Health: WAS) が提唱する、「性の健康について改めて考えて推進する日」という記念日です。WASでは毎年9月4日を世界性の健康デーと定めており、世界各地で記念イベントが開催されています。
こうしたイベント活動は、開催地域の人たちに「性の健康」という言葉を知ってもらい、自身の性に関する事柄を振り返ってもらうきっかけになってきたかもしれません。そのような機会を作れたのも、「世界性の健康デー」という日が提唱されたからこそです。
この記念日が提唱されたのは2010年のことで、それから10年以上が経過した今年2021年6月、ポルトガルが「性の健康デー」という国としての記念日を制定したというニュースが飛び込んできました。
そもそも「世界性の健康デー」とは?
世界性の健康デーは、「性の健康」という概念が健康や福祉にとって欠かすことのできない基本的な側面であるという理解を深めることや、「性の権利」を人権として認識することを目的としています。
世界各地で記念イベントが開かれている
毎年9月4日は世界60ヵ国以上で記念イベントが、実に様々な形で趣向を凝らして開かれています。
日本でいう公民館のような場所でスピーチコンテストが開かれたり、「性の権利宣言」に登場する16個の権利を1つずつボードに書いて、気になったボードと一緒にセルフィ―を撮ろうというストリートキャンペーンが行われたりと、様々な記念イベントがこれまでに開催されてきました。
本メディア「Sexual Health NAVI」を運営する性の健康イニシアティブも、前身団体である「若者世代にリプロヘルスサービスを届ける会Link-R」時代から、「世界性の健康デー 東京大会」の開催事務局を務めてきました。
ポルトガル議会で全会一致の決定
2021年6月にポルトガルの議会(日本の国会に相当)は、「性の健康デー」を、世界で初めて国にとっての重要な日として全会一致で承認し、このことによって「性の健康」と「性の権利」が優先されるべき事柄であることを、世界で初めて公式に認めた国ということになりました。
「世界性の健康デー」を提唱したWASの現在の会長Pedro Nobre(ペドロ・ノブレ)氏も「このことが、性の健康の基本的な役割を認識する運動の始まりとなることを願います。世界中の政府、最終的には国連に、9月4日を世界性の健康デーとして制定するように働きかけていきたいと思います」とコメントを発表しました。
出典:世界性の健康学会Facebookページより
ポルトガルの決定までの様々な出来事
今回の出来事を受けて、「世界性の健康デー」を提唱しているWASの事務局長であるLuis Perelman(ルイス・ペレルマン)氏に話を聞きました。
ーー今回の採択に至るまでにどのようなことがあったのでしょうか?
私たちはいつも、世界性の健康デーが国連で記念日として宣言されることを夢見ていました。そしてそれが私たちが住んでいるローカルの地域に影響を与え、それぞれの地域でも同様に記念日として宣言されることを期待してきたのです。
例えば、メキシコのハリスコ州では、NGOが参加する保健局の性教育委員会で「性の健康デー」を記念日に指定することが提案されました。それがロビー活動の結果州議会に持ち込まれ、州として宣言されました。2013年のことだったと思います。
約3年前 、アルゼンチンのチャコ州が性の健康デーを宣言したいとWASに申し出てきました。WSHD委員会のCristina Fridman(クリスティーナ・フリードマン:アルゼンチン人)と連絡を取り、彼らを支援しました。
WASの会長であるペドロ・ノブレはそのような動きが出てきているという話を聞き、ポルトガル政府に知り合いがいたようで、ポルトガルへの働きかけをしていきたいと言いました。ポルトガルの世界性の健康デー委員会の責任者はMarta Crawford(マルタ・クロフォード)という人物で、彼女はある政党と連絡を取りました。彼らは議論を準備し、関係者を説得しました。どれくらい時間がかかったかは私は聞かされていませんが。
ーー今回のニュースは世界にどんなインパクトをもたらすでしょうか?
今ご紹介したような話は、市民が提案し、議員や行政と協力して実現に向かっていくアドボカシーの例です。今、ポルトガルは国の公式見解として宣言をしたので、他の国やヨーロッパ大陸、あるいは国連の模範となることができます。また、どこの国も国連で提案することができます。
ーー今回のことは、毎年9月4日前後に行われる今後の世界性の健康デーに何らかの影響を及ぼすでしょうか?
WAS会員が世界各地でおこなっている世界性の健康デーはまだ資金のない草の根運動であり、国や都市ごとに個人や地域の組織に頼ってプロモーションや組織化を行っています。これは、WASの使命である「性の健康と権利の促進」の一環です。
WHOの「性の健康と権利」の定義は、2002年にWASと共同で作成しました。このような例は、大きな組織と協力したり、大きな組織を通したりすることを実現する方法のひとつです。WASはファシリテーターの役目で関わっていきます。
後記
私自身、日本にも「性の健康」というものを広めたいと思いながら、「世界性の健康デー」に長い間関わってきました。その性の健康デーが、日本から遠く離れたヨーロッパの国で、その国の大切な記念日とされる日が来た!素晴らしいと感じるとともに、日本でももっともっと活動を充実させ、性の健康という考え方を広めていく必要があることを痛切に感じました。一国でもこうした国が増えることを願い、Parabéns, Portugal!(おめでとう、ポルトガル!)
編集部注(2022年2月6日記):
本文中に出てくる「性の健康イニシアティブ」は、2022年2月に「性の健康イニシアチブ」に名称を変更いたしました。

性の健康イニシアティブ立上げ人/代表・Sexual Health NAVI編集長
2002年より性の健康などの領域で活動。2004年には国際人口開発会議(カイロ会議、1994年)から10年を記念する国際会議ICPD+10にユースとして参加。2012年からWAS(世界性の健康学会)の活動に参加するようになり、同年から同学会の公式委員会Youth Initiaitive初の日本人メンバー(~2019年)。国内では世界性の健康デー東京大会の運営に2012年より参加し、現在は実行委員長も務める。2019年に世界性の健康学会から発表された「セクシュアル・プレジャー宣言」の公式翻訳チームのメンバーも務めるなど、性の健康やリプロダクティブヘルスの領域で国内外で長年活動している。