※この記事は2017年11月に別の媒体で公開した記事の再編集版になります。

「これまでの常識」が通じなくなってきている日本社会

新年明けましておめでとうございます。2021年、「若者世代にリプロヘルスサービスを届ける会Link-R」は「性の健康イニシアティブ」に名称を変更し、新たな出発をいたします。みなさまどうぞよろしくお願い致します。

年末年始に大掃除をしていたら、過去に書いた記事がいくつか出てきました。数年前に書いた文章ではありますが、2021年にも通じる内容であるように思いますので、加筆修正をし、掲載することといたしました。

患者の様子を通じて見る社会の現状

病院で勤務する看護職の方が「病院に来る患者さんの様子が変わってきているように感じます。生活状況の大変な人が増えてきたし、話が通じなくなってきました」というお話をしてくださいました。私から、次のような内容の話をしました。

【1】
「日本の識字率は100%と言われているが、生活保護の申請に来る人のなかには”生活保護”という字を書けない人もいる。その状況では当然、申請の書類を書くのも困難。ならば専門家にサポートを依頼するかという話だが、専門家に依頼できるお金があるなら生活保護など申請する必要はない。これが意味すること、分かりますよね?」

【2】
「想像力や理解力には経験からの類推という側面がある。直接その経験をしていなくても、過去の自分の経験の中にあるものに結びつけながら人は色々な想像力を働かせる。所得のある家庭は子どもに様々な経験をさせようとお金を使うが、経済的に余裕のない家庭はそこに投資をする余裕が無い。つまり、家庭の経済環境がもろに子どもの生きる力や将来を決めてしまう時代が来ている」

【3】
「2009~2010年ごろは”格差社会”という単語が新聞に出ていた。それは、格差というものに新規性とニュース性があったから。今、そんな言葉はニュースにならない。つまり、格差が当然のごとく存在する社会になっているということ」

【4】
「子どもの貧困という言葉は少し変で、もともと稼ぐ状況にない子どもが貧困になるのは親の貧困という原因がある。そしてそれは子どもの貧困でも親の貧困でもなく、家族の貧困の話であり、家族の貧困はそれを生み出す社会に原因があり、つまりそういう状況に変わり果ててしまった、日本の貧困の問題なのである」

【5】
「貧困の問題は、福祉分野の人々が熱心に活動をしているが、本当はリプロダクション(生殖)に携わる業界の人たちこそ熱心にやらなければいけない。貧困の話題において、低学歴・低所得・子だくさん・少年非行の問題はセットとなりやすい。そしてこれは若年者の予期しない妊娠などの形で次の世代に再生産される。だから、リプロダクションの専門家がもっと熱心に深刻に取り扱うべきイシューでもある」

【6】
「金融リテラシーというものも極めて重要で、例えば親の生命保険で高額のお金が入ったときにそのお金を使って貧困の状況を脱することもできる。でも、金融リテラシーがないと無駄に使って終わってしまうようなことも平気で起こる。これは、医療とも福祉とも違う領域であるが、ソーシャルスキルとして確実に必要なことなのだ」

【7】
「こういうことを考えてくると、専門性や専門領域の縦の軸が個々に仕事をしていて、横糸を通せる仕事というのがあまりなく、横の連携が無いことが問題」

性の健康は社会の状況とも深く関係する

質問をしてくださった看護職さんは「日頃の違和感をきちんと整理して説明してもらえたので、すごくすっきりした」という内容のことをおっしゃっていましたが、それは「臨床にいる専門職は社会で起こっている諸課題について省みたり学んだりする機会が無い」ということの裏返しでもあると思うのです。その事実にショックを受けた覚えがあります。

かつて一億総中流と呼ばれた時代にはなかった社会的な格差が存在するようになり、「日本語という言語が通じても(お金を持っている人と持っていない人の経験の差がありすぎて)話が通じない」という現象が起こり、どんどんとその溝が広く深くなっているように感じられます。この傾向は2021年以降もますます加速するものと思われます。

性の健康イニシアティブは、日本で、日本語で、性の健康を広めていくことを目指す団体ですが、フェアネス(公平性)も重要なキーワードと考えています。性の健康は社会(の状況)との関係も深く、社会的な環境の安定無くして性の健康の安定は無いとも言えますので、今後もこうした一見すると性の話題と関係の無さそうな社会の話題についても折を見て触れていきたいと思います。

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