人権無くして性の健康なし
性の健康を実現するためには様々なものが必要ですが、そのひとつが「人権」です。目には見えない、触ることもできない人権。言葉ではその大事さを伝えられたとしても、なかなか実感できないこともあるかもしれません。
そんな人権の大事さをスッと理解させてくれるのが、今回ご紹介する『暴力を受けていい人はひとりもいない』(2018年 高文研 刊)です。
本のあらまし
認定NPO法人エンパワメントかながわの理事長を務める阿部真紀氏の初の著書である本書は、第1章~第3章に分かれています。
エンパワメントかながわは、CAP(子どもへの暴力防止)というプログラムやデートDV予防プログラムの出前講座、電話相談などをおこなっています。
本書の第1部にはCAPを通じて阿部氏が見てきた子どもたちのことが、第2部にはデートDV予防活動としてどんなことをしてきたのかが、第3部では阿部氏のこれまでを振り返りつつこれからの目標が、書かれています。また、CAPやデートDVに関する基礎知識や、実際の対応方法の例についても触れられています。
事例が豊富で分かりやすい
本書のなかでは、阿部氏がどのような講座をおこなっているのかに加え、その講座を受けた子どもたちがどのような反応を示してくれたのか、また講座を通じて見えてきた現場の最前線の様子や、そういった現実を受けてどのような事業を展開してきたのかについて、たくさんのことが書かれています。活動報告に終始することなく最前線の現場の様子が分かり、大きな学びを伴います。
そのうえ、そうした現場経験のなかで、阿部氏がどのような対応を行ってきたのかについても触れられており、「暴力が起こる実際の場面で何を考えどのように対応すればいいか」についても多くのヒントを得られるものと思います。良かれと思ってした対応が被害に遭った人を更に傷つけ追い込むということも往々にしてあることです。そうならないための考え方や応対方法に大きな示唆を与えてくれることでしょう。
まなざしの優しさが心地いい
書籍のタイトルにもなっている「暴力を受けていい人はひとりもいない」。この言葉は阿部氏がとても大切にしている言葉であるそうです。この言葉を書籍のタイトルにすることからも、阿部氏のまなざしの優しさが伝わってきます。本書を読めばそのまなざしの優しさがより強く感じられます。
「暴力は振るわれる側に問題がある」「いじめられる側にも原因がある」昨今、こうした意見が社会の中で根強く聞かれます。「私はこんな人間だから、暴力を振るわれても仕方がないんだ」そんなふうに肩を落とす人も、大人子どもを問わず少なくありません。本当にそうでしょうか。どんな事情があろうと、それが暴力を受けて良い理由にはなりませんし、暴力をふるっていい理由にもなりません。
本書は、そのことを明確に理解させてくれるうえ、暴力が起こらないように、あるいは起こってしまった時に、私たちがどのように行動すればいいかについて示唆を与えてくれます。暴力を排除していく要は人権であり、人権というものの重要性について本書を読めば感じ取れるものがあるはずです。阿部氏の、人に対する眼差しの優しさと、人権への真剣さに心を打たれる1冊です。
性の健康イニシアティブ立上げ人/代表・Sexual Health NAVI編集長
2002年より性の健康などの領域で活動。2004年には国際人口開発会議(カイロ会議、1994年)から10年を記念する国際会議ICPD+10にユースとして参加。2012年からWAS(世界性の健康学会)の活動に参加するようになり、同年から同学会の公式委員会Youth Initiaitive初の日本人メンバー(~2019年)。国内では世界性の健康デー東京大会の運営に2012年より参加し、現在は実行委員長も務める。2019年に世界性の健康学会から発表された「セクシュアル・プレジャー宣言」の公式翻訳チームのメンバーも務めるなど、性の健康やリプロダクティブヘルスの領域で国内外で長年活動している。