コンドームのこれからの役割
日本では避妊にも性感染症予防にも用いられているコンドーム。避妊法として、あるいは性感染症予防法として、本当に効果的なツールなのでしょうか。色々な状況のなかでコンドームを使うことが適切な場面がある一方、必ずしもそうとは言えない(使用したとしても効果のない)場面もあるように思います。そのようななかで、これからの時代のコンドームの役割について考えてみました。
コンドームと避妊
コンドームのパッケージには「一般的名称:男性向け避妊用コンドーム」という記載が見られます。しかしながらコンドームのみを使用して避妊した場合の失敗率はそれなりに高いことが知られています。
パール指数というデータがあります。100人の女性が使用1年間で何人妊娠するかを表したもので、数値が低いほど避妊効果が高いというものです。コンドームのパール指数は2~18%というデータがあります。
低用量ピルのパール指数は0.3~9%、IUS(子宮内に入れて5年ほど使用し続けられる避妊システム)は0.2~0.8%というデータがあり、これらと比較すればコンドームの避妊効果が必ずしも高くないことが分かります。
コンドームは日本では主流な避妊具として広く認知されていますが、避妊法として認識せず、ピルやIUSを使用できない場合にやむを得ず使用する代替的な避妊手段と捉えておくほうが安全と言えます。
コンドームと性感染症予防
性感染症とはセックスによって感染する感染症です。セックスとは陰茎を膣内に挿入だけではありません。オーラルセックスやアナルセックスなど接触部位は全身に及びます。また、陰毛の触れ合いで感染する毛じらみ、皮膚の水疱がつぶれて感染を拡げるヘルペスなど、コンドームを装着してセックスをしても感染する可能性のある性感染症も複数存在します。すなわち、陰茎のみを覆うコンドームだけで性感染症を完全に防ぎ切ることは難しいということです。
「オーラルセックスなどの前戯は一切しない。全身スーツのようなコンドームを付ける」ことを徹底すれば性感染症が防ぐことはできますが、セックスの醍醐味である「肌と肌のふれあい」は全て排除しなければなりません。全身にコンドームをまとって膣内に陰茎を挿入するだけの行為をセックスと呼べるでしょうか。
かつて、デュアルプロテクションと呼ばれた「避妊はピルで、性感染症予防はコンドームで」という呼びかけがありましたが、近年ではコンドームだけで性感染症を予防しきることの難しさもまた感じられるようになってきています。
コンドームの役割が変化している
IUSや低用量ピルなどのより確実な避妊法の登場により、避妊法としてのコンドームは有効だと言えなくなっています。性感染症については、検査の普及や治療薬、ワクチンの開発が進められている現代において、コンドームの装着と性感染症の罹患の相関性に疑問を持ち始めてもよいのではないでしょうか。
コンドームの新たな未来
「避妊法としては確実ではない。性感染症の予防効果も限定的」であるコンドームですが、嗜好品としての価値は大いにあるように思います。
例えば、陰茎をマッサージしながらコンドームを装着することでコミュニケーションを図る。コンドームの厚さを色々試してみてカップルで最も気持ちいい厚さを探してみる。バイブやローターなどに被せて使用する。隠れたおしゃれとしてコンドームを付ける。色や香りを楽しむ。こういったことが挙げられます。また、嗜好品として社会で認められることで、「保湿効果のあるコンドーム」「尿漏れ対策アイテムとしてのコンドーム」など、コンドームの副効用という新たな視点から様々な開発が進むかもしれません。
嗜好品としてコンドームを使用することになる社会は、性感染症予防や避妊についてより有効な方法が確立された「性の健康」が保たれた社会と言えるでしょう。そのような時代の到来を願って止みません。

妊娠・出産・授乳に関わらない助産師
助産学生の頃から性科学に興味を持ち始め、独学で性科学の学びを続ける。性の健康が対象とする広範な領域全般に興味を持っており、性に関する様々な事象に対して独自の視点から発信を続けている。