性の健康を対人援助の中でどう活かすか
性の話題は万人にとって身近な自分事となります。対人援助の仕事をしている専門家やプロフェッショナル自身にとってもそうですし、その支援を受ける被援助者にとってもです。被援助者への支援の質を高め、支援の引き出しを増やすために、性の健康に関する知識を身に着けることは有効だと考えられます。
この「性の健康×○○」のカテゴリーでは個別具体的な援助の場面に用いていける知恵を伝えます。その前に今回の記事では、対人援助の仕事全般に広く共通する「性の話題を相談された時、どんな態度を取ればいい?」ということについて触れてみたいと思います。
性の健康は身近な自分事
自分の性から離れて生きられる人はいません。誰にとっても性というものは身近な自分事なのです。そうであることを望んでいなかったとしても。
Sexual Health NAVIというこのメディアは、対人援助要素のあるお仕事に就いておられる各界の専門家やプロフェッショナルを主な対象として情報を発信しています。医療の専門職、福祉の専門職、介護の専門職、法律家のみなさん、心理職のみなさんなど、対人援助の仕事は多岐に渡ります。そういったみなさまに「性の健康」という視点から情報を発信することがこのメディアの目的です。
「法律家の私に性のこと?関係ないのでは?」
「介護と性?なんだかピンと来ないけど?」
そんな風に思われる方もきっといらっしゃると思いますが、先ほど申し上げた通り、性は誰にとっても身近な自分事なのです。つまり、みなさんが日々援助・支援をされている方々にとっても、性は自分事だということです。
「性の健康と医療」の例
例えば医療の場面。脳外科に来た患者さんが「セックスやマスターベーションの際、射精する前後に頭痛に見舞われる」という相談をされた場合、どう対応しますか?
突然の申し出に気まずくなり曖昧な笑顔を向けてしまう、なんていうこともあるかもしれません。しかしながら、もっと気まずいのは患者さんです。勇気を出して相談したのに気まずそうな顔をされたなんてことがあれば、最悪の場合「もう医者には相談しない」と思われてしまうかもしれません。
「性の話と医療」と聞くと、性器周りを診療する泌尿器科や産婦人科だけが性のことを扱っているように思うかもしれませんが、そんなことはないのです。どの科にとっても性の話題が関係する可能性はあります。そしてそれは医療の世界に留まらず、どの領域の対人援助の仕事においても同様です。
だから本メディアでは、対人援助要素のあるお仕事をしている各界の専門家やプロフェッショナルのみなさまに、性に関する知識や、性の話題が出た場合の適切な態度の取り方などを広く発信することを目的にしています。
性の健康には「そういうこともある」という態度が大事
性の話題が日常的に出るということは身の周りではなかなか起こらないと思います。性の話題は、話しても大丈夫なタイミングや相手を選ぶこともあります。別の見方をすれば、「性の話に免疫がない」という言い方もできそうです。
だから、真面目な内容だったとしても、性の話が突然出た時にビックリしてしまったり、どうしていいのか分からなくなって凍り付いてしまったり、あるいは反射的に怒り出してしまったり、ということがあるかもしれません。
対人援助の場面でビックリしたり凍り付いたり怒ったりすると、被援助者にネガティブなメッセージが伝わります。そして関係性の中に遠慮の壁が築かれたり、「もう相談するのはよそう」と思われたりします。これは援助活動においては大きなディスアドバンテージとなります。
自分がビックリするような性の話をされた場合にも「そういうこともあるよね」という鷹揚な態度でいられると、被援助者は安心して相談事を打ち明けられますし、関係性をより豊かに太いものにすることもできます。自分がビックリするような性の話を聴いても「そういうこともあるよね」という態度を貫くのは言うほど簡単なことではありませんが、様々な情報や価値観に触れ、性の話題に対する頭の中の引き出しが増えることで少しずつできるようになっていきます。本メディアの発信がその一助になることを信じてやみません。
自分の価値観と、相手の価値観
性の話を聴き、性の相談を受けるうえでは、相手の話す内容や相手の持っている価値観を否定せず、「そういうこともあるよね」と受け止めることが重要です。では相手の持っている価値観が自分のそれと異なる場合、どう考えればいいでしょうか。
自分の価値観や考えは、自分の人生を豊かなものにするために使ってください。相手の人生は相手のものですから、それを豊かにするために相手の価値観を大事にしてほしいと思います。
例えば、「結婚こそ人生の至高の幸せ」と思っている自分と、「結婚に未来はない」と思っている相手がいた場合、自分の人生を豊かにするために自分は結婚すればいいと思います。他方で、相手は結婚に価値を感じていませんから「いや!結婚こそ至高の幸せだ!」とは言わず、相手の価値観を尊重し援助をして差し上げればいいのです。
個別具体的な場面で使える性の健康の知恵を発信
この記事では、対人援助の仕事に広く必要な「そういうこともあるよね」精神について書きました。この「性の健康×○○」のカテゴリーでは「性の健康×医療」「性の健康×介護」など個別具体的な場面に用いていける性の健康の知恵を発信していきます。
性の健康イニシアティブ立上げ人/代表・Sexual Health NAVI編集長
2002年より性の健康などの領域で活動。2004年には国際人口開発会議(カイロ会議、1994年)から10年を記念する国際会議ICPD+10にユースとして参加。2012年からWAS(世界性の健康学会)の活動に参加するようになり、同年から同学会の公式委員会Youth Initiaitive初の日本人メンバー(~2019年)。国内では世界性の健康デー東京大会の運営に2012年より参加し、現在は実行委員長も務める。2019年に世界性の健康学会から発表された「セクシュアル・プレジャー宣言」の公式翻訳チームのメンバーも務めるなど、性の健康やリプロダクティブヘルスの領域で国内外で長年活動している。