「望んでないけれどセックスワーク」についてくる重苦しさ

イギリスの慈善団体の調査で、新型コロナに関連する経済苦から、女性が望まないセックスワークに追いやられているということが分かりました。

出典:新型コロナで、女性たちが望まぬセックスワークに追い込まれている【イギリス・調査】(HUFFPOST)

プライドを持って自ら望んでセックスワーカーになる人もいれば、望んではいないけれど生きていくために仕方なくセックスワーカーになる人もいます。後者は「マーケティングの専門家が、苦手な会計の仕事に就く」というようなこととはまったくレベルの異なる重苦しさを伴う話です。

望んでいないセックスワークにはどうしてそのような重苦しさがあるのかについて見てみましょう。

性の健康の視点からの解説

セックスワークは哀れな仕事ではなく職業選択のひとつ

貧困にあえぐ女性が手っ取り早くお金を稼ぐためにまずすることのひとつに、自分の身体を資本にして働くセックスワーカーになることが挙げられるかもしれません。

他方で、セックスワークに従事する女性全てが貧困を理由としているかといえば、そうとは言えません。性産業に望んで参入する女性も存在し、彼女たちはセックスワークにプライドを持っています。

女性が貧困からセックスワークを開始するという構図は確かにあり両者は関係してはいるものの、プライドを持ってセックスワークに臨む人もいることから、「セックスワークも職業選択の1つでしかない」という考え方もあるのです。

「職業選択のひとつ」に他の職業には無いリスクが付いて回る

「セックスワークも職業選択の1つでしかない」はずなのに、他の職業には無い特有のリスクがあり、それらがセックスワークをする女性に困難をもたらすことがあります。

①個人の尊厳やセクシュアリティが守られないことがある

セックスワークではその人のセクシュアリティの一部を商品化することになります。このことから「性的自己決定権」や「性的人格権」が侵害される、すなわち人権を侵害され個人の尊厳が守られない状況に陥ることがあります。

しかしながら、セックスワーカーだからといって人権まで売っているわけではありません。本人がサービスとして提供すると決めたことはセックスワークの対象になりますが、それ以外のことは対象とはなりません。対象とならないということは、強要すればセックスワーカーへの人権の侵害となり、犯罪になる可能性もあるということです。

②安全性の確保が充分にできない場合がある

セックスワークにおいて働き手の安全性を確保できない場面が存在します。セックスワーカーと客、二人だけの空間が作られてしまうことで、セックスワーカーの安全性を確保できない可能性が非常に高まります。

更に、SNSなどを通じて個人交渉ののちにセックスワークに従事する場合、自宅やホテルを利用することが推測されますが、この場合店舗型と比べてよりセックスワーカーの危険度が増します。

性感染症についても、罹患の有無を必ず確認する、事前に検査を受けてパスした客のみを受け入れるようにするなど、対策を徹底すればよいのですが、コストや手間を考えると全例導入することは現実的ではありません。

③社会的にスティグマが貼られている

セックスワーカーは社会的地位を低く見られ、よいイメージを持たれないこともしばしばあります。そのようなスティグマは、セックスワークを選択する女性を苦しめるだけではありません。社会の風紀を乱しかねないという負のイメージに基づいて扱われ、ないものとされ(つまり社会的に抹消され)、セックスワーカーに必要な支援が届かない事態を招くことにもなります。

プライベートなものを商品にできない人もいる

今挙げたことがクリアになれば、セックスワーカーがより安全に働ける道が拓かれるでしょう。安全に働けることはどんな仕事に就いていても重要なことです。

他方で、「望んではいないけれど生きていくために仕方なくセックスワーカー」という人には、「苦手だった営業の仕事に就く」というようなこととはまったく違う次元の重苦しさが伴っているかもしれません。

性やセックスというものはプライベートなものでもあります。プライベートなものをサービスにできないことはあり得ます。それは悪いことではありません。だから望んでいないセックスワークには重苦しさが伴うのであり、この重苦しさをダメなものだと否定すれば「セックスワークが出来ない人はダメな人」だということにつながり、その人の性の自己決定権を冒涜することになります。

「望んでいないのにセックスワーク」の背後にあるジェンダー問題

今回、コロナ禍によって引き起こされた経済危機は、雇用が不安定な女性に大きな負担を強いています。SDGsの第5目標では「ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」と明記されています。

貧困に陥った女性がセックスワークを選ぶ時、「自分の身体を売るのだから、どうなったって自分の責任だろう」という「自己責任論」が沸き起こることがしばしばありますが、「自己責任論」を押し付ける前に、どうして貧困に陥ってしまっているのかというジェンダーの問題を考えなければなりません。

 なお、どんな職業選択をしたとしても、自己責任論は付きまといます。しかし、安全が確保されているかどうかは別の問題です。自己責任だから何をされても甘受しなければいけない、自己責任で働いている人には何をしても許されるということではありません。

女性への支援の在り方、ジェンダー平等を達成するために取り組まなければいけない課題について、今一度考察する必要があります。

「あなた」が今日からできること

セックスワークに否定的な顔をしてしまう方へ

医療職、心理職、福祉職、様々な分野で働く方々が、セックスワークで働いている方の支援をする可能性があります。セックスワーカーであることが分かった場合にどのように接していいのか分からないということもあるかもしれません。セックスワーカーであることについて本人以外が良し悪しをジャッジしていい理由はありません。ノンジャッジメンタルに、分け隔てのない支援をお願いいたします。「セックスワーク is a work」(セックスワークも労働)です。

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