婚活支援が少子化対策になる?

日本政府は少子化対策の一環として2021年度から地方自治体によるAIを活用した婚活マッチングを助成するとのことです。地方自治体がマッチングシステムを導入する際の費用の2/3を負担する方針であると報じられました。

出典:AI婚活への補助拡大 政府が3分の2を負担方針(FNNプライムオンライン)

端的にいえば「少子化対策の一環として婚活を支援する」という話ですが、いくつかの点からこの施策に整合性がないことが分かります。

内閣府の調査によると、独身でいる理由として最も多く挙げられているのが「適当な相手にめぐりあわない」であるということが引用記事内で指摘されていますが、それは個人が「結婚をしない理由」であって、社会に子どもが増えない理由ではありません。

子どもを持つか持たないか、持つならパートナーを誰にして、何人の子どもを、どういうタイミングで、どこで産むか、を決めるのは個人であり、「結婚はしても子どもは持たない」といった選択肢も充分にあり得ます。

性の健康の視点からの解説

「結婚」と「子どもができること」はセットではない

結婚をすればじきに子どもを持つものだ。
結婚が無ければ子どもは産まれない。

こうした考えが中心的であった時代はかつて確かにあったと思います。

今は「結婚をしても子どもをもうけない」という選択肢や「結婚をせずシングルで子どもを育てる」という選択肢を選ぶ人々も増え、「結婚と子ども」をめぐる在り方も多様になっています。

希望の子ども数を持たないのはお金がかかるから

内閣府の調査では、平成年間から希望するだけの子ども数を持たない理由が調査されていますが、60%以上の圧倒的多数の方が回答するのは「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」ということが言われ続けており、子どもを希望してもお金がかかるために諦めている人が相当数いるということなのです。

つまり、結婚をしたとしてもお金が無ければ子どもを諦める可能性は十分にあることから「結婚」と「子どもが産まれること」をセットで考えることはできず、婚活支援が少子化対策として効果的であるとは言いづらいわけです。

逆に言えば、結婚の有無に関わらず、子どもを希望する個人やカップルに手厚い経済的な支援を行えば挙児に繋がる可能性はあり、少子化を解消する方向に幾ばくか貢献する可能性もあるということも言えます。

そもそも少子化は悪なのか

戦後(1945年以降)日本では、1947年~49年に第一次ベビーブームが、1971年~1974年に第二次ベビーブームがありました。この間隔でいけば、1995年前後に第三次ベビーブームが来ると予想できますが、現実にはそうなりませんでした。

少子化到来はかねてから予想されており、分かっていながらこの問題を先送りしてきた歴代の為政者の責任は重いわけですが、他方で今から「少子化=悪、何とかしないといけないもの」というところから少子化の議論が始まることは適切なのでしょうか?

2020年を迎えた現在、日本は世界でも類を見ないスピードで少子高齢化大国となっています。今からベビーブームを起こすことは難しく、少子化と呼ばれる現象を止めることはできないでしょう。「少子化=悪」の前提で対策を考えることに終始するのではなく、人口減少社会という未来をリアルに想定して「綺麗に縮む」ことを考える時に来ているのかもしれません。

今日からあなたにできること

少子化対策を担っているみなさまへ

「子どもを持たないのはお金がかかりすぎるからだ」という子育て世代の声は、平成年間の頃からはっきりと調査データとして表れています。「出会いがない」ことは結婚しない理由であって、子どもを持たない理由ではありません。本気で少子化対策を考えるならば、結婚しても子どもを持たないという選択肢があるなかで婚姻数を増やそうとするのではなく、現に子どもを希望している個人またはカップルへの手厚い経済的助成を行うほうが近道であり効率もいいはずです。

また、局所的に出生数の回復に一定程度成功したとしても、社会全体で少子化を防ぐことは恐らく難しいことから、「綺麗に縮む」ための社会予測や制度設計も並行して行っていくことが必要なのではないかと思われます。

なお、人口学にはマクロ(社会全体の傾向を見る)とミクロ(個々人に着目する)のふたつの視点があります。少子化という現象はマクロの視点です。他方、個々人が子どもを産まないというのはミクロの視点です。そしてミクロの集合体がマクロとなるのです。マクロの状況を変えようとマクロの視点から考えていても、ミクロへの具体的な対策を行わなければ結果はでませんが、ミクロ(個々人)が子どもを持つか持たないかは個人の権利であり、他者が介入することは容易ではありません。

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