ゲスト講師として講義をしました
本メディアのオーナー団体である性の健康イニシアチブの代表・柳田が、大学生に向けて講義させていただきました。
対象となったのは、養護教諭(保健室の先生)や保健体育教諭を目指す大学1年生80名余り。特別活動や総合的な学習の時間について学ぶ講義の1コマにお邪魔をして60分間ゲスト講師として講義いたしました。
性の話は、教科でいえば、生物、保健、家庭科を始めとして幅広い領域にまたがるものであり、特定の教科で扱うよりも、特別活動で取り上げることにより、学際的で統合的かつニーズに応じた柔軟な学習が可能となることから、総合的な学習について学ぶ授業の枠で呼んでいただくことになったのでした。
講義の内容
柳田は性教育をどのように捉えているか
性教育の神髄は「自己決定」の話
性教育の神髄は「自己決定」「コミュニケーション」「人間関係」の話だと捉えているという話がありました。「性教育」という言葉からイメージされやすい、身体の話や避妊、性感染症予防といった個別具体的な知識は、自分の人生への自己決定を下すうえで、あるいは円滑な人間関係を育む際に必要になるものであり、土台になるのは自己決定や人間関係といった話題である(そのうえに個別具体的な知識が積み重なることで人生が豊かなものになる)ことが強調されました。
性教育は0歳から始まっている
性教育は0歳の時から始まっており、両親や他の大人にたくさん抱っこされることを通じて情緒が安定することや他者との触れ合いの心地よさを体験的に理解することも、将来の性教育の土台になっていくことを紹介しました。
また、保育園や幼稚園に通うようになればプライベートゾーンの話(下着で隠れる場所は大事な場所だから他人に触らせてはいけない。誰かに触られたらお母さんやお父さんに相談してね、というような内容)もする必要が出てきますがこれももちろん性教育です。
このように年齢や発達段階ごとに性に関する話を伝える機会はたくさんあることを伝えたのでした。
人生を生きるうえで大事な態度は性教育を学ぶと育まれる
このたびの講演テーマにもなっていますが、性教育を学ぶことで人生に必要な態度を身に着けることができるという話が出ました。
例えば、他人の性の在り方を本人の同意を得ずに暴露してしまうことは「アウティング」(例えば「あの人はゲイですよ」と本人の同意を得ずに他人に話すことなどがこれに当たります)といってよくないことですが、他人の秘密は性に関連する話題に限らず、勝手に暴露してはいけません。
このように、性教育の中で習うことは、人生のあらゆる場面で応用を効かせて役立てることができることが話されました。
性の話をする人に求められるアティチュード(態度)
1:ノンジャッジメンタル(自分の主観で判断をしない態度)でいる
2:主体者はいつもその人であることを忘れない
3:科学的な情報を扱う
の3つを紹介していました。
性の相談への対応にはいくつか異なるアプローチがある
ヘルスベースド(健康を中心に考えた)アプローチ
健康であることに重きを置いて支援をしていく姿勢のこと。性教育においては、支援者/指導者が意識的あるいは無意識的に「これが正しい」「これが好ましい」と思っている方向に相談者を導こうとするケースが散見されることや、それはノンジャッジメンタルな姿勢ではないという話が出ました。
ライツベースド(権利を中心に考えた)アプローチ
「何が正解か」の基準を主体者の意思決定に委ね、主体者が選ぶことを尊重する姿勢のこと。健康は万人の権利であり、健康を大事にすることは頭の片隅に置きつつも、ひとりひとりに「自分で決める権利」があることを忘れてはいけないし、時にはリスクを冒す権利や、健康を害したとしてもしたいことをする権利もまたあるのではないかということが話題になりました。
トライアングルアプローチ
国際的には昨今、「性の健康」「性の権利」「セクシュアル・プレジャー」の3つを三角形で捉え、バランスよく推進することで性の健康が増進されるということが言われ始めているのですと話していました。
総括
これらの話題を、グループディスカッションや身体を動かすワークを交えながら、体感的に伝えた60分となりました。
養護教諭(保健室の先生)や保健体育教諭は「性教育」の授業も担わなければいけません。また、児童・生徒が集まる学校においては性に関するトラブルや相談が起こることも充分に考えられます。将来のそのような可能性を考え、性教育という枠に留まらず、性科学の国際学会で語られている内容についても触れたのでした。
学生のみなさんは熱心に聴いて下さり、グループディスカッションやワークにも積極的に参加してくれていました。呼んで下さった先生からも「いつになく、学生の反応が良かったです」というお言葉をいただきました。学生のみなさまに少しでもお役に立てたのなら嬉しく思います。
受講者の声
「性教育へのイメージが変わった」という内容のコメントが多く寄せられました。
ひとりひとり感じたことや考えたことが異なり、熱心に聞いてくださっていたことが伝わってきます。
また、様々な内容の質問も寄せられ、こちらにとっても多くの気づきがあり、質問への回答を通じて振り返れたことや深められたこともありました。
感想
2020年は新型コロナの影響があり、オフラインでの講演活動は軒並み中止となってしまいましたが、この日は大学にお邪魔して講義をすることができました。講演活動ができたことも嬉しかったですし、その内容を大学生のみなさんが熱心に聴いてくださったこともとても嬉しく思います。
性の健康イニシアチブが推進する性の健康やそれに付随する様々な知見は、現在の日本の学校での性教育においては扱いが難しいものも含まれていると思いますが、今回の講演では性教育がどれほど身近な自分事であるか、人生の中で大事な意味を持っているのか、といったことを伝えたつもりです。将来みなさんが先生になった時に、性教育の授業内容を考える際にこのたびの話が糧になれば嬉しい限りです。
講演・研修のご依頼を受け付けております
性の話を取り扱う際に求められる態度があります。養護教諭をはじめとする先生方にとって、あるいは将来学校教員を目指す大学生にとって、「性の話をどうやってすればいいか」「性に関する悩みをどうサポートすればいいか」、正解の見えづらいこれらの問に目から鱗の発見があるかもしれません。
先生方の研修に、大学の教員養成課程の授業に、ご用命ください。
「自分の生まれついた在り方が生きづらさの理由になるのではなく、誰もが自分は自分に生まれてよかったと思える世界」を作ることをミッションに掲げ、性の話ができる対人援助職の養成をおこなっている「性の健康イニシアティブ」が運営するメディアです。対人援助職のみなさんに役立てていただけるように、日本語で「性の健康」についての情報を紹介しています。