ニュースの概要

2020年10月7日、緊急避妊薬(以下EC)を医師の処方箋がなくても薬局などで購入できるようにするための検討を政府が行うと報道されました。それを受けて、日本産婦人科医会(木下勝之会長)は、10月21日に開かれた記者会見の中で、「どんな時も薬局で(ECを)買えるようにするのはおかしい」と反対意見を表明しました。

出典:産婦人科医会「アフターピル、薬局で買えるようにするのはおかしい」 改めて反対意見を表明(BUZZFEED JAPAN)

ECは、避妊の失敗という緊急事態が起こってから72時間以内に服用することで高い確率で避妊ができる薬剤です。早く服用すれば早く服用するほど効果が高まると言われています。つまり、アクセシビリティ(利用しやすさ)が大切なのです。薬局でECを購入可能とすることはアクセシビリティの向上につながります。緊急避妊薬を薬局で購入可能にすることの本質はここ(アクセシビリティの向上)なのです。「手に入れるまでに時間がかかり72時間以内に間に合わなかった」ということが起これば元も子もありません。

性の健康で読み解くニュース解説

緊急避妊薬の薬局販売に時期尚早との意見

引用記事によれば、日本産婦人科医会・木下会長は、①ECは特定のタイミングで72時間以内に内服するものであり、いつでも薬局で購入して使えばいいというものではないこと、②医師の指導のもと服薬することが大原則であるうえ、(薬局で購入可能となれば)必要量以上に薬を買ってしまう可能性があること、③日本における性教育が立ち遅れているなかで薬局でECを買えてしまうことはおかしな話ではないかということ、④産婦人科にくれば処方箋を手に入れられるほか、オンライン診療であれば他の診療科でも処方箋をもらえるようになることから、以前よりもECへのアクセシビリティ(アクセスの利便性)は向上したこと、を主な理由とし、薬局での購入を可能とする件については時期尚早であると反対しているということです。

72時間以内のスピーディーな服薬が必要

ECを医師の処方箋無しに薬局で購入できることの最大のメリットは、スピーディに薬を手に入れられるようになることです。ECは性交後72時間以内に内服することで予期せぬ妊娠を防ぐことが可能となる薬で、できるだけ早く内服するほうがよいとされています。例えば、金曜の夜に避妊に失敗してしまったとして、処方が可能な自宅近くの産婦人科クリニックが土日休診のうえ、月曜日が祝日だったら…と考えれば、できるだけ早くどころか72時間以内の内服さえ不可能となってしまいます。

夜間や休日の処方は難しい

現状、産婦人科ならどこでも処方してくれるわけでもありません。大学病院や総合病院と呼ばれる大きな病院ではなかなか処方してもらえないケースがあります。日本は医療施設の規模により医療体制の役割分担をしています。ECはいわゆる1次医療圏(初期医療、外来診療が中心)で処方されることが多い傾向にあります。すなわち、休日や夜間は休診である場合が想定されます。

安全確実スピーディーに入手できることが女性の権利を守る

薬局で入手することができればスピーディーに行えたはずの緊急避妊が、医療機関の受診を必要とするために72時間以内に行えなかったということが起こるかもしれません。そうなった場合、妊娠を継続し出産・育児をするとしても、中絶の処置を受けるとしても、その影響は女性が引き受けることになります。つまり、女性の自己決定権や身体権がかかっている事柄であり、安全確実スピーディーにECを手に入れられるようになることで救われる女性は多いでしょう。

診察は病院、ECは薬局、選択肢が増えることが大事

薬局での販売を通じてアクセシビリティが向上することと、病院を受診し医師による診察を受けられることは、どちらも大切なことです。当事者の女性のニーズに合わせて、診察を受けることができるのか、スピーディーに薬局でECを手に入れられるのか、選択肢が増えることは女性の権利の向上の観点から有益なことです。

緊急避妊薬の悪用・乱用と性教育の遅れは別問題

薬局で購入可能になりアクセシビリティが向上することによりECの悪用や乱用、当事者の知識不足による誤用が心配になるという意見がありました。薬局で購入可能にすることの本質は緊急性の高い薬に対するアクセスの向上であり、知識不足や悪用・乱用とは別問題です。知識や意識に関することは教育や啓発の課題であり、分けて考えることでこのニュースの本質を理解しやすくなるのではないでしょうか。

オンライン診療でもEC処方は可能だがネックもある

厚生労働省が発表している指針「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(平成30年3月)(令和元年7月一部改訂)のなかで、オンライン診療で緊急避妊に関わる診療を行うことについて、「一定の要件に加え、産婦人科又は厚生労働省が指定する研修を受講した医師が、初診からオンライン診療を行うことは許容されうる」としています。産婦人科以外の医師でも所定の研修を修了すればECのオンライン処方が可能になるということです。2020年10月時点では研修を修了している医師が県内に1名という地域も存在し、医師の偏在が懸念されるところです。医師の偏在を懸念するのは、オンライン診療による処方の場合、服用後一定期間中(3週間を目途)に再診を受ける必要があるとされているからです。

服用3週間後の再診は必要か

一方で、薬局での購入を可能とする件はそもそも医師の診療による処方が必要ないとしてすすめている施策であり、服用3週間後に対面診療を受けなければならないという話自体が適切ではありません。現時点で厚労省が示している指針では、オンライン診療によるECの処方後、原則3週間後に必ず対面診療を受けることとしていますが、妊娠の確認(緊急避妊が成功したことの確認)や避妊に繋げる(ピルの処方などを相談する)ことを目的とした診察であれば、服用3週間後の再診もオンライン診療で構わないということになります。ユーザビリティの観点から、この点についても議論の余地がありそうです。


2020年10月21日に開かれた日本産婦人科医会・木下会長の記者会見の報に関する解説を試みてみました。以上を踏まえて引用記事をお読みいただければ、何か気づきがあるかもしれません。

なお日本医師会の猪口雄二副会長は、10月7日の日本政府の方針表明を受け、10月14日の定例記者会見で、「緊急避妊薬に関する専門の研修を受けた薬剤師が十分な説明の上で対面で服用させるとの同調査会の提言には同意したい」という日本医師会の見解を説明したということです。
出典:https://www.med.or.jp/nichiionline/article/009623.html

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